5フォース分析は環境分析のうち「業界分析」にあたる手法の一種で、業界の構造や収益性を分析するフレームワークです。競争戦略論の第一人者マイケル・E・ポーター教授により提唱され、1980年出版の『競争の戦略』によって世に広まりました。
5フォース分析では、業界の収益性を引き下げる「五つの競争要因」から業界の競争構造を理解していきます。これを図示したのが、以下の有名な5フォース分析の図です。
これら5つの競争要因の大きさを分析することで、
- 業界ごとに平均的な収益性に差があるのはなぜなのか
- それが継続するのはなぜなのか
- ある業界において収益性を決めるドライバーは何なのか
- 業界の平均値を上回る収益性を上げる企業が存在するのはなぜなのか
などが明らかになります。そして、そんな5フォース分析の結果を踏まえれば、自社の利益を拡大するにはどんな戦略を取れば良いのか、戦略立案の大きなヒントを得ることができるのです!
さて、そんなポーター教授の5フォース分析ですが、
「フレームワーク自体は知っているけど、現場でどのように活用すれば良いのかイマイチわからない」
なんて声もよく耳にします。
そこで今回は、美容業界を例に挙げて5フォース分析を実際に使用して見せながら、そのやり方やポイントを解説してみましょう。
この記事を書いている僕は経営コンサルタント等の複業をしながら、本業としては東京・高田馬場にて「髪質改善美容室IDEAL」のオーナーを務めており、スタッフ5名(パート含む)の個人美容室ながら月商600万円以上の売上を記録しています。
そんなキャリアを活かして、この記事では5フォース分析を中心に「勝てるビジネス戦略」の立て方・考え方を解説していきます!
最大手美容室チェーンで売上.指名共に1位を獲得し独立するものの猛烈な赤字でスタート。マーケティングを学び駆使した後、圧倒的な黒字化の仕組みを構築。サロン経営者にコンテンツセールスやコンサルをスタート。3年で複業月収8桁を達成。600名以上が登録する無料オンラインサロン(MAKE TIME)や、”ロイヤル顧客リピートで満席の仕組み”を構築できる実践型のオンラインサロンを運営。コンサルタントとして50件以上のサロンを年商800万~3000万以上UPさせた実績を持つ。現在ではサロンのロイヤルリピート経営の仕組み化や、複業のサポートコンサルを継続中。
そもそも5フォース分析とは? ── 五つの競争要因から業界構造を理解するフレームワーク!
まずはじめに、5フォース分析の基本を簡単に解説しておきましょう。5フォース分析は、業界の収益性を引き下げる「五つの競争要因」から「本質的な業界の収益構造」を理解するフレームワークです。業界構造への正しい理解を得ることで、その業界で勝つ方法(=有効な競争戦略)を導き出すことができます。
競争の相手は「競合企業」だけじゃない! ── 業界構造を決める5つの競争要因
ビジネスにおいて「競争」といえば、ライバル企業と顧客や売上をめぐって競い合うことを想像するでしょう。美容業界ならば、同じ商圏の美容室の価格設定や施術内容が気になってしまう人が多いかと思います。
しかしながら、企業が利益をめぐって競争している相手は競合他社だけではないとポーター教授は語ります。
“五つ競争要因──新規参入の脅威、代替製品の脅威、顧客の交渉力、供給業者の交渉力、競争業者間の敵対関係──というものは、業界の競争が、既存の競争業者だけの競争ではないということを示している。顧客、供給業者、代替製品、予想される新規参入業者のすべてが「競争相手」なのであって、状況によって、それらのどれが真正面に出てくるかわからない。こういった広い意味での競争のことを、広義の敵対関係と名づけたい。”
── マイケル・E・ポーター 著, 土岐坤, 服部照夫, 中辻万治 訳『新訂 競争の戦略』(ダイヤモンド社, 1995年)
ビジネスの収益性に影響を与えているのは、競合他社だけではありません。競合他社に加えて「新規参入業者」や「代替品」も同じように顧客を奪い合っていますし、「顧客」や「サプライヤー」とは「値段交渉」という勝負をしている関係にあるのです。
これが5フォース分析の「五つの競争要因」が示すところですね。
ちなみに、サプライヤーというのは「供給業者」のことで、美容室でいえば材料屋さんや店舗物件のオーナー(土地所有者、不動産屋さん)などのことですね。
この五つの競争要因を図示したのが、冒頭で示した5フォース分析の図となります。
ポーター教授が示した「五つの競争要因」は、その業界におけるビジネスの本質(=業界構造)を決定づけるものです。これを深く読み解くことが5フォース分析の本質であり、ひいては「勝てるビジネス戦略」を構築することにつながるのです!
5フォース分析のやり方と実践例 ── 美容業界を取り巻く「五つの競争要因」
それでは、実際に5フォース分析をどう使うのか、個人美容室のビジネス戦略構築を例に挙げながら解説してみましょう。今回は、僕が経営する「髪質改善美容室IDEAL」に合わせて、店舗の位置は東京・高田馬場ということにしましょう。
【ステップ⓪】まずは「業界」を正しく定義する
5フォース分析を始める前に、いくつかの前準備が必要です。まずはじめに、「業界」というものを正しく定義してあげましょう。
個人美容室を経営しているならば、当然業界は「美容業界」になると考えるでしょう。しかし、もう少しよく考えてみると、たとえば床屋さんもライバルと考えて「理美容業界」と考えることもできそうです。もちろん、他にもいろいろな定義が考えられるでしょう。どのように業界を定義するのが適切なのでしょうか?
【ポイント】ポーター教授の最新の著書によれば、業界を定義する際は以下の2つの側面から考えるべきだと述べています。
- 製品やサービスの範囲
- 地理的な範囲
①については、業界構造(5つの競争要因)が線引きの参考になります。2つの企業の顧客・サプライヤー・参入障壁などが同じ、もしくは極めて近いのであれば、同じ業界と見なせるというわけです。
②は、地理的な線引きも必要となることを示しています。ただしこれは、市場の定義とは違うことを忘れてはいけません。市場であれば商圏で線引きすればOKですが、業界の定義としては「ローカルな要因によって消費者の嗜好や価値観が異なるのかどうか」で判断するのです。
ポーター教授の言葉を考えれば、個人美容室が属する業界に床屋は含めず「美容業界」とするべきでしょう。床屋と美容室ではメンズの一部の顧客を取り合ってはいますが、主とする顧客層には大きな違いが見られ、業界構造が異なると考えられます。
ローカルな要因については、今回の例ならば「東京23区内の激戦区における美容業界」とするべきでしょう。なぜなら、同じ美容室でも美容業界の最先端である原宿や表参道を抱える東京23区内と地方の美容室では。業界構造がかなり違ってくるからです。
したがって業界構造や戦略立案の前提条件に大きな違いが出るため、違う業界と考えるべきなのです。
ということで、まずステップ①では今回の業界の定義を「東京23区内の激戦区における美容業界」と定義しました。ということで、次のステップに進みましょう!
なお、本記事ではこのまま5フォース分析に入っていきますが、その前に「マクロ環境分析」などをすればより広い視野で戦略立案に臨むことができます。その辺りは以下の記事で触れていますので、こちらもぜひ読んでみてください!
【ステップ①】五つの競争要因の「縦の軸」を分析する
前準備が済んだら、実際に「五つの競争要因」の影響力を分析していきます。ここでポイントとなるのは「5つすべてを同列に分析しない」ことです!
【ポイント】どんな業界においても、せいぜい1つか2つの競争要因が業界の収益性に決定的な影響を与えているものです。したがって、五つすべてを同列に分析するのではなく、特に重要なものを特定して、そこに時間をかけて分析するのが効率の良く5フォース分析を行うコツです。
戦略立案に大きな影響を与える特に重要な要素(「ビジネスドライバー」といいます)を特定するためには、5フォース分析を「縦の軸(新規参入・競合他社・代替品)」と「横の軸(顧客・業界・サプライヤー)」に分けて考えるのが有効です。
【ポイント】縦の軸と横の軸では、競争の性質が異なります。縦の軸は「顧客の奪い合い」という競争関係を示しています。この3者のどれが業界(あるいは自社)の収益性に大きな影響を与えているのか考えることが、重要なビジネスドライバーの特定に繋がるのです。
横の軸は「価値・利益の奪い合い」という競争関係を示しています。業界(あるいは自社)の利益を奪っているのは顧客なのか、サプライヤーなのかを考えることもまた、ビジネスドライバーの特定に繋がります。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、実際に5フォース分析をしてみましょう。まずは 縦の軸 ── 業界内の競争、新規参入の脅威、代替品の脅威 ── から解説していきます。
業界内の競争 ── 美容業界の例 : 競合が多く、脅威大
業界内では、競合同士の価格競争、品質の勝負、広告合戦、キャンペーンなどさまざまな戦術を使った競争が繰り広げられています。この「業界内の競争(競合他社との敵対関係)」の分析では、以下のような要因を調べましょう。
- 競合他社の数
- 撤退障壁の大きさ
- 商品や顧客層のバリエーション
- 競争の性質(どこを争点にしているのか)
「競合他社の数」はわかりやすいですね。業界内に参入している業者が多いほど競争が激しいわけです。美容業界はかなり競合が多いことで知られており、厚生労働省による2018年のデータによれば、東京都内の美容室数は21,566店舗にものぼります。
次の「撤退障壁の大きさ」とは、事業がうまくいかなかったとき撤退にどれだけのコストがかかるのかということです。これは、撤退障壁が大きいほど脅威が大きくなります。というのは、ライバル社が無理をしてでも業界内に留まろうとして、価格競争で適正価格を引き下げてしまうリスクが高まるからです。
3つ目の「商品や顧客のバリエーション」とは、業界内がどれだけ市場細分化されているのかを表しています。たとえば美容業界の例では、美容室によって
- 若者向けの奇抜なスタイルやハイトーンカラーの特化店舗
- 髪質改善や縮毛矯正の特化店舗
- メンズのカット・パーマに特化した店舗
- 地域密着型の低価格路線店舗
などのように、特定の顧客層に特化した店舗がちらほら見られます。このように市場が細かく分割されている場合は競合同士の競争が抑制されて、平均的な収益性が高くなるのです。
最後の「競争の性質」とは、競合同士の競争がどこで、どのように繰り広げられているのかということです。こちらも都内の美容業界の例で解説しましょう。
都内の美容業界では、主に以下の7点が争点となっていると考えられます。
- 値段設定(新規へのキャンペーンなども含む)
- 技術力
- メニュー内容(人気のサロントリートメントなども含む)
- お店やスタイリストの知名度・ブランド力
- 立地の良さ
- ホットペッパービューティーへの投資額(広告費)
- 自社サイトやInstagram、YouTubeなどを利用したWeb集客力
「値段」や「技術力」「立地の良さ」については当然ですね。また、過去のカリスマ美容師ブームなどで高い知名度を獲得したチェーンは、その「認知度・ブランド力」の恩恵を受けて現在もそのまま高い人気を得ていることがわかります。
そして、その他で競争の争点となっているのが「ホットペッパー」「Web集客」「メニュー内容」です。ホットベッパービューティーは今や、美容室の集客にとって必要不可欠なものとなっていますが、高額な広告プランを契約することで優先的に上位表示することができます。ホットペッパーを利用した「広告合戦」も美容業界における大きな争点と言えるでしょう。
とはいえ、ホットペッパーでの広告合戦に応戦していると、かなりのコストを必要とします。そこで都内の美容室の多くがInstagramやGoogleマップなどのSNSや自社のWebサイトを利用した「Web集客」に取り組んでいます。ここも大きな争点と言えます。
また、お店でどんなメニューを展開するかも集客に大きな影響を与えます。TOKIOやOggiotto、サイエンスアクアなどの人気トリートメントメニューを取り入れることで、メニューが持つ「ブランド力」で集客できるからです。
美容業界の例では以上の通り7つの争点を挙げましたが、争点が多いほど業界の平均的な収益性は高く保たれると言えます。これがもし価格競争や広告合戦のみに争点が絞られているような場合は、その業界で高い収益を上げるのは難しいと言わざるを得ないわけです。
以上を総合的に考えると、美容業界の「業界内の競争」は「競争が激しくて脅威はかなり大きいが、工夫の余地は残されている」と結論づけられるでしょう。
新規参入の脅威 ── 美容業界の例 : 参入障壁が低く、脅威大
「新規参入の脅威」の大小は、参入障壁の大小と直結しています。新規参入が多い場合、業界内の既存企業はシェアを奪わられないように品質向上や宣伝広告に励む必要性が増してしまいます。したがって、実際に新規参入業者がどのくらいあるかには関係なく、「新規参入しやすいかどうか」だけで新規参入の大小は決まるのです。
参入障壁の大小を決めるのは、以下のような要因です。
- 参入に要する「初期費用」
- 「法規制」や「特許」
- 「立地」や「販売路線」などによる先行者利益
- 顧客が商品を乗り換える際の「スイッチングコスト」
- 既存企業の「ブランド力」
- 「規模の経済性」がどれだけ働くか(規模の大きさがどれだけコストカットに影響するのか)
美容業界の場合、新規参入は比較的容易と考えられます。美容師免許さえ持っている人なら、残りの法規制は手軽な講習等でクリアできますし。初期費用は個人でも銀行や金融公庫などの融資で賄えます。顧客のスイッチングコストはゼロに等しいですし、規模の経済性も働きません。唯一気になるのは「ブランド力」による「集客力の差」ですが、その障壁さえ乗り越えられる見積りが立っていれば参入できるとも言えます。
実際、美容業界は新規参入が絶えない業界ですので、常に自店舗の近くに競合店が出店するリスクを考慮しておく必要があるでしょう。
以上のことを踏まえると、都内の美容業界において「新規参入の脅威」は大きいと結論づけられるでしょう。常に自店舗の近くに新規店が参入する可能性を考えて優位性を築いておく必要があるわけです。
代替品の脅威 ── 美容業界の例 : セルフ施術やバーバーの流行で、脅威は中程度
代替品とは「業界が提供する商品/サービスと同等もしくは類似の機能を、異なる形で提供するもの」のことを言います。たとえばスマートフォンはデジカメの、LINEはメールの、YouTubeはテレビの代替品と見なすことができるでしょう。
代替品とは同じ顧客を奪い合ってしまうため、代替品が存在すると業界の収益性は引き下げられてしまいます。特に、代替品がコストパフォーマンスに優れていたり、ひとつでより多くのニーズに応えられたりする場合、その脅威は大きくなります。
美容業界の場合、代替品の脅威としては以下のような例が考えられます。
- 床屋(理容店)
- 顧客のセルフカットやセルフカラー
床屋と美容室は基本的に顧客層が異なるため、メンズカット特化店などを除けば大きな脅威とはなり得ません。顧客のセルフカットについても顧客自身が技術力の違いを認識しており、美容室の価値を十分に理解している人が多いため、それほどの脅威とは考えられないでしょう。
少し意識する必要があるのはセルフカラーです。ヘアカラーもカットと同様、プロの施術と市販品を用いた自身での施術とでは仕上がりが大きく異なりますが、その不利益をあまり顧客が理解していないことも多いです。そのため、セルフカラーは美容業界にとって懸念すべき代替品と言えるでしょう。
【ステップ②】五つの競争要因の「横の軸」を分析する
縦の軸の分析が終わったら、続いて横の軸 ── 買い手(顧客)の交渉力、売り手(サプライヤー)の交渉力 ── の分析に入りましょう。ここでは「顧客(買い手)」および「サプライヤー(売り手)」の交渉力を分析して、業界の利益率にどのような影響を与えているのか考えていきます。
買い手の交渉力 ── 美容業界の例 : 値段だけでお店選びする人が多く、脅威大
「買い手の交渉力」とは、顧客による値下げや品質向上への圧力を表します。たとえば次のような場合、買い手の交渉力は高まります。
- 大量購入または高頻度で定期購入する
- その製品を選ぶべき特別な理由がなく、他社への乗り換えが容易である
- 他社製品へ乗り換える際のスイッチングコストが低い
- 顧客があまりお金に余裕がない
- 商品選択をする際、判断基準の中で価格の占める割合が大きい
美容業界の場合、「価格」だけでお店選びをする人が多いうえに、スイッチングコストも低いため、買い手の交渉力はかなり大きいと言えます。
- このお店の技術はすごい!
- この美容師さんは私の好みをわかってくれる!
- 年間カラーチケット買っちゃったから、期限内はお店を変えるわけにはいかない
などといったように、値段以外に何かしら「このお店を選ぶべき理由」をつくらない限り、価格競争に巻き込まれて収益性は低くなってしまうでしょう。
売り手の交渉力 ── 美容業界の例 : 材料屋との関係性は対等。脅威小
「売り手の交渉力」とは、サプライヤー(供給業者、仕入れ先)による取引価格や契約条件に関する圧力を意味します。サプライヤーが圧倒的に高い品質の商品を有していたり、特許に守られた技術を要している場合など、「そのサプライヤーに依存せざるを得ない」場合に売り手の交渉力は高まります。
美容業界の場合、基本的にはそれほど売り手の交渉力は大きくありません。材料がなければ美容室は営業できませんが、都内を商圏にする美容材料屋は何社もあります。大手の材料屋は規模こそ大きいですが、契約数や販売額のノルマ達成に明け暮れる営業担当が持っている交渉力は低く、むしろこちらの味方をしてくれる場合すらあります。少なくとも不利な交渉をせざるを得ないシーンは少ないと言えるでしょう。
ただし、TOKIOトリートメントやOggiottoシャンプーなどといった人気ブランドの商材はメーカーの交渉力が大きいため、やや材料代の高さが気になります。このような点は懸念点として留意しておくべきでしょう。
また、店舗物件の賃貸料は継続的に利益を圧迫するため、こちらはオープンの段階でよく考えておく必要があります。好立地の物件はサプライヤー(不動産屋)の交渉力が大きいので、損な取引をしないようにしましょう。
ここまでのまとめ ──「効果的な5フォース分析の実践方法」と「美容業界の業界構造」
ここまでで「五つの競争要因」の分析方法について、基本的な内容が一通り解説できましたので、一旦ここまでの話をまとめましょう。
5フォース分析の実践では、以下の3点がポイントとなります。
【5フォース分析実践時のポイント】
- 「業界」を正しく定義する
- 「縦の軸」と「横の軸」に分けて分析する
- それぞれの軸において、影響力の大小を考え重要なビジネスドライバーを特定する
例として取り上げた「都内の個人美容室」の場合、
- 業界は「東京23区内の激戦区における美容業界」と定義する
- 縦の軸では、「業界内の競合」と「新規参入業者」の多さが脅威となる
- 横の軸では、「顧客の値段圧力」の脅威が大きい
と分析できました。
これらを踏まえて、次章では「5フォース分析の結果を踏まえた戦略立案」に進んでいきましょう。
5フォース分析はどう活用する? ── ビジネス戦略に応用する方法と考え方
五つの競争要因の分析を終えたら、そこで得られた情報を活かしてビジネス戦略を構築していきます。順に解説していきましょう。
【ステップ③】「業界の平均的な収益性」を調べ、五つの競争要因からその理由を解釈する
「五つの競争要因」がどのような影響を与えているかは業界によって異なるため、 「事業の収益性(どれだけ収益を上げやすいか)」は業界ごとに違います。5フォース分析を実施することで「この業界の平均的な収益性がなぜ高い(低い)のか」を深く知ることができ、それが戦略立案時のヒントとなるのです。
業界の収益性を判断するには、「ROIC(投下資本利益率)」で比較するのが最適だとポーター教授は述べています。ROICとは「税引き後の営業利益」を「投下資本(純資産+ 社債・借入)」で割って得られる指標で、どれだけ資金をうまく活用して稼げているかを表します。
業界の平均ROICを調べるにはインターネットで検索すればOKです。あるいは、国土交通省や中小企業庁などが発行するデータを元に自分で計算することもできます。
業界の平均的な売上・経費・純資産・負債を調べることで、ROICを計算できますよ!
なお、自社のROICを計算したいときは、決済書(確定申告書類)の「バランスシート(BS ; 貸借対照表)」と「損益計算書(PL)」を見れば計算に必要なデータが揃いますよ!
美容業界は平均的な収益性がかなり低い
さて、美容業界の収益性を調べ、5フォース分析の結果をもとに深掘りしてみましょう。美容業界の平均ROICは、株式会社リンクスリサーチによる分析によると1.53%となっています。
日本企業全体の平均ROICが6%程度、同じ生活関連のサービス業でも学習塾や冠婚葬祭業などは平均以上となっていることを考えれば、美容業界の平均的な収益性はかなり低いことがわかります。
【ポイント】これは、「業界内の競争が激しさ」を引き金に「顧客の値段圧力」が高くなっており、値上げできない分を「ホットペッパーなどによる広告・キャンペーン合戦」で補おうとしていることなどが主な要因だと考えられます。
つまり、美容業界(特に東京都内をはじめとする激戦区)は「業界内の競争」と「買い手の交渉力」の脅威が収益性のネックになっていると結論づけられます。
したがって、美容業界で成功するには、この2つの脅威にうまく対抗できる戦略を練る必要があるわけです。
【ステップ④】高い収益性を誇る競合の「ポジショニング戦略」を理解する
業界の平均的な収益性を知り、ネックとなっている要因(ビジネスドライバー)を特定できたら、それをどう乗り越えていくか考えていきます。その際にヒントとなるのが、業界内で既に成功している企業です。
たとえば都内の美容業界では、MINX、SHIMA、PEEK-A-BOO、AFROAT、ACQUA、EARTH、OCEAN TOKYO、air、ALBUM、SHACHUなどといった有名美容室が人気を集めています。
MINXやSHIMA、PEEK-A-BOO、AFLOAT、ACQUAなどは一昔前の「カリスマ美容師時代」を築いたベテラン美容師たちが立ち上げた人気サロンであり、絶大な知名度とブランド力が集客にも、単価アップにも、腕の良いスタイリストを集めることにも繋がっています。また、EARTHやALBUM、airは代表の経営手腕が非常に優れており、一般的な美容室とはビジネスモデル自体が一線を画しています。
【ポイント】これらの人気サロンが素晴らしいのは間違い無い事実ですが、多くのサロンとは前提条件が違いすぎるため戦略を考える際にはあまり参考になりません。
参考にすべきは無名のところから急成長したお店や小規模ながらも高い収益性を誇っているお店などでしょう。
そこで今回は、近年飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を続けるOEACAN TOKYOやSHACHUの成功の理由を分析してみましょう。するると、それぞれの戦略の中に共通点が見えてきます。
「強み × デジタルマーケティング」が成功の秘密!
OCEAN TOKYOとSHACHU。それぞれの特徴を簡単にまとめるなら
- 今どきメンズの憧れ!メンズカットならOCEAN TOKYO
- ユニコーンカラーの発祥サロン!ハイトーンカラーならSHACHU
といったところでしょう。このように、どちらも「他社と差別化した明確な強み」を持っているのがこの2つの美容室に共通した特徴です。
また、ただ強みがあるだけではなく、卓越した「Webマーケティング」で自店の強みを顧客に伝えているという点も共通しています。どちらもデザイン性の高い自社サイトを有しており、Instagramを有効活用しています。魅せ方を工夫して自分の強みをしっかり打ち出し、若者からの注目を集めるとともに、メディア露出の機会を増やしているのです。
このようにして「独自の価値」を顧客が理解しているからこそファンが集まり、なおかつ単価アップにも繋がっているのです。
両サロンともに、創業者をはじめとするスタッフ一同が高い実力と向上心を持って美容師という仕事に向き合っているのはもちろんです。ただ、決してそれだけではなく、競合が多い業界の中で「勝つための工夫」を凝らしていることが窺えるでしょう。
両サロンの戦略をもっと知りたい方は、創業者のインタビュー等を検索してみるとより納得できますよ!
【ステップ⑤】自社の「強み」を活かして「脅威」に対抗する方法を考える
高い収益性を実現している競合企業から「成功要因」を見つけ出したら、それと「自社の強み」を掛け合わせて戦略を立てていきます。
まずは「ターゲットを明確に定める」ことが大切です。そして、強みを活かしてターゲット顧客に「どんな特徴を持ったお店だと思われたいか」を煮詰めます。
このとき、5フォース分析で見つけ出した「業界構造が抱えるネック」に対抗できる戦略にすることが大切です。今回の美容業界の例であれば、
- 競合他社が多い中で「自社を差別化する」こと
- (キャンペーンも含めた)「価格競争に巻き込まれない」こと
- ホットペッパーへの課金などの「広告合戦で消耗しない」こと
などが大切になるわけです。この条件をうまくクリアできるように、強みを打ち出して「市場の中で独自のポジションを築く」ことが必要なのです。
ぼくが経営する美容室「IDEAL」の場合、ターゲットとなる顧客層を「美髪を求める30代後半以上の女性」に定め、「高品質な髪質改善メニュー」に特化して高い収益性を保っています。
このようにターゲットを絞り込めばブリーチ剤などの顧客層に合わないメニュー・材料が不要になりますし、その分コストを抑えながら上質な髪質改善メニューを提供できるようになります。
このように、ターゲットを絞り込むことで顧客満足が上がり、その結果としてこちらも収益性を向上できるのです。
【まとめ】5フォース分析は戦略立案に直結する実用的フレームワーク!
5フォース分析とは、競合との競争、新規参入の脅威、代替品の脅威、顧客の交渉力、サプライヤーの交渉力という「五つの競争要因」を分析して「業界構造」を理解するフレームワークです。業界が抱えている「収益性のネックとなっている要因」などへの深い理解が得られるため、勝てるビジネス戦略の立案に繋がるのです。
今回解説した5フォース分析をはじめとするビジネスフレームワークやWebマーケティングの手法などを理解し、使いこなせるようになれば、ビジネスの収益性改善や会社での業績アップに非常に役立ちます。
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【参考資料】
- マイケル・E・ポーター 著『新訂 競争の戦略』(ダイヤモンド社, 1995年)
- マイケル・E・ポーター 著『[新版] 競争戦略論I』(ダイヤモンド社, 2018年)
- ジョアン・マグレッタ 著, マイケル・E・ポーター 協力『〔エッセンシャル版〕マイケル・ポーターの競争戦略』(早川書房, 2012年)
- 相葉宏二, グロービス経営大学院 著『グロービス MBA 事業戦略』(ダイヤモンド社, 2013年)
- グロービス経営大学院 著『新版 グロービス MBA 経営戦略』(ダイヤモンド社, 2017年)
- 日本マーケティング協会 監修, 恩藏直人, 三浦俊彦, 芳賀康浩, 坂下玄哲 編著『ベーシック・マーケティング(第2版)』(同文館出版, 初版2010年)
- グロービス 著, 嶋田毅 執筆『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』(ダイヤモンド社, 2015年)
- 津崎盛久 著『道具としての経営理論』(日本実業出版社, 2012年)
- 金森努 著『"いま"をつかむマーケティング』(アニモ出版, 2011年)
- みんなの運用会議 ROICの業界平均を出してみる
- Beautopia 昭和、平成、令和。時代を代表する人気美容師&有名美容室ランキング
- ホットペッパービューティーAcademy 業界TOPインタビュー OCEAN TOKYO 中村トメ吉さん・高木琢也さん/たった3年で、全国から男子が集うカリスマサロンへ。OCEAN TOKYOはなぜここまで、人々を熱狂させるのか?
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