マインド・仕事術

無能な人ほど自己評価が高い!? ダニング=クルーガー効果とは?

「井の中の蛙大海を知らず」「実るほど頭を垂れる稲穂かな」なんて諺がありますが、今も昔も半端者に限って実力を過信しがちで、本当に実力がある賢い人ほど謙虚なことが多いものです。偉大な学者や思想家たちも同様のことを述べており、いかに国や時代を問わず見られることなのかがわかります。

  • ソクラテス「無知の知(不知の自覚)」
  • 孔子「真の知識は、自分の無知さを知ることである」
  • チャールズ・ダーウィン「無知は知識よりも頻繁に自信を生む」
  • ウィリアム・シェイクスピア「愚か者は自身を賢者だと思い込むが、賢者は自身が愚か者であることを知っている」

なぜ人は自分の無知や実力不足を自覚せず、過信してしまうのでしょうか? この疑問について研究を重ね、その詳細を明らかにしたのがコーネル大学のクルーガー博士とダニング博士です。彼らの研究報告を踏まえ、この現象は「ダニング=クルーガー効果」として知られています。

ダニング=クルーガー効果は、ビジネスシーンでもよく見られます。たとえば、仕事少しうまくいき始めると次第に自分の能力を過信し始め、周りの人たちよりも秀でていると感じてしまうなどがその一例です。

ビジネスでも人間関係でも、このような間違った認識はせっかく良い方向に向かっていた流れを崩し、失敗の原因にもなり得ます。ダニング=クルーガー効果に陥らないようにするにはどうすれば良いのでしょうか?

ダニング=クルーガー効果とは? ── メタ認知に関する認知バイアス

「能力の低い人ほど自分の能力を過大評価しやすい」というダニング=クルーガー効果は、ダニング博士、クルーガー博士による論文「無能かつそれに無自覚 : 自分の無能さを認識することの難しさが、いかにして過信した自己評価をもたらすのか(原題 : Unskilled and Unaware of It: How Difficulties in Recognizing One's Own Incompetence Lead to Inflated Self-Assessments, 1999年をもとに名付けられた心理学現象です。まず、同論文から概要文の一部を引用しましょう。

“人は、多くの社会的・知的領域において、自分の能力を過度に高く評価する傾向がある。このような過大評価は、これらの領域で不得手な人が二重の負担を負っていることが一因であると、研究者らは指摘している。これらの人々は、誤った結論に達し、不幸な選択をするだけでなく、その無能さゆえに、それを自覚するためのメタ認知能力をも失ってしまうのである。(原文 : People tend to hold overly favorable views of their abilities in many social and intellectual domains. The authors suggest that this overestimation occurs, in part, because people who are unskilled in these domains suffer a dual burden: Not only do these people reach erroneous conclusions and make unfortunate choices, but their incompetence robs them of the metacognitive ability to realize it.)
── Kruger, Justin and Dunning, David, 1999, “”Unskilled and Unaware of It: How Difficulties in Recognizing One’s Own Incompetence Lead to Inflated Self-Assessments””, Journal of Personality and Social Psychology, vol.77, no.6, p.1121-1134.

この概要にある通り、ダニング博士、クルーガー博士は「人は得てして自分の知識・能力を過信しやすい傾向にある」ということ、そして「その傾向は能力が低い人ほど顕著に見られる」ことを指摘しています。

この現象は、以前からさまざまな研究で示唆されていたことでした。たとえば、以下のような事実が同論文以前に発表されています。

  • 社会的に無能な少年は、自分が社会的な礼儀を欠いていることにほとんど気づいていない(Fagot and O'Brien, 1994)
  • 読解力のない学生は、読解力のある学生に比べ、自分の文章理解度を評価する能力が低い(Maki, Jonas, & Kallod,1994)
  • テストの成績が悪い学生は、成績の良い学生に比べ、どの問題が正解になるかを正確に予測できない (Shaughnessy, 1979; Sinkavich,1995)
  • 物理学では、初心者は専門家よりも物理問題の難易度を正確に判断できない(Chi et al.,1982)
  • テニスでは、初心者は専門家よりも、フェイントプレーが有効に働いたかどうかをうまく判断できない(McPherson & Thomas, 1989)

このような思い込みが発生してしまう原因について、ダニング博士とクルーガー博士は有能でない人はその分野における「メタ認知能力」を欠いてしまうからだと考え、研究・実験を行ったのです。

「メタ認知能力」とは? ── ダニング=クルーガー効果が起こる根本原因

メタ認知能力とは、自分自身が物事をどのように認知・理解しているのかを客観的に理解する能力のことを言います。つまり、「自分が何を認知しているのかを認知する」ことがメタ認知です。

メタ認知能力が十分にあれば、自分自身のことを冷静に分析できます。そのため、自分の能力の程度も判断できますし、スキルアップのためには何が必要かも理解できます。しかしメタ認知が欠如している場合、そもそもの「自分の能力が不足している」という事実自体を認識できないため、それが自信過剰を引き起こす原因となるのです。

能力が低い人はメタ認知も欠如しやすい! ── 同論文が示した仮説と実験の結果

ダニング博士、クルーガー博士は、先人たちの研究結果を踏まえ、「無能な人は『自分の能力が低い』という事実を認識するためのメタ認知が欠如しやすいのではないか?」という仮説を立てます。具体的には、次の4つです。

これらの予測をもとに、彼らは実験・研究を行います。ユーモア、文法、論理に関する4つのテストをコーネル大学の学部生に行い、そして参加者にテストの成績を予想してもらったのです。

【ポイント】
実験結果は興味深いものでした。どの実験でも成績下位25%のグループに入っていた参加者たちは、「自分の能力は高くない」とは自覚していながら、それでも自分の能力をかなり過剰評価していたのです! それも、自己評価の精度は上位25%のグループと比較して4倍もの差が開いていたのです!

この研究・実験によって彼らの仮説の信頼性は高まり、ダニング=クルーガー効果として広まったのです。

久保真介
久保真介
なお、この論文でダニング博士、クルーガー博士はイグノーベル賞の心理学賞を受賞しています!

なぜ無能な人は自分の能力を過信してしまうのか? ── ダニング= クルーガー効果が起こる仕組み

なぜ能力が低い人は正しいメタ認知ができない傾向にあるのでしょうか。また、メタ認知が低い人の多くが「自分はそれなりに能力が高い」と思い込んでしまうのはなぜなのでしょうか。

その理由について、ダニング博士とクルーガー博士は「ある特定の領域で能力を発揮するためのスキルは、その領域における自分自身や他人の能力を評価するために必要なスキルとまったく同じであることが多い」からだと述べています。このことは、同論文中に示された具体例を考えるとわかりやすいです。

“例えば、文法的な英文を書く能力を考えてみよう。文法的な文章を作る能力は、文法的な文章を認識する能力と同じであり、文法的な間違いがあるかどうかを判断する能力も同じである。つまり、正しい判断をする能力の基礎となる知識は、正しい判断を認識する能力の基礎となる知識でもあるのだ。前者を欠くことは、後者を欠くことである。(原文 : For example, con- sider the ability to write grammatical English. The skills that enable one to construct a grammatical sentence are the same skills necessary to recognize a grammatical sentence, and thus are the same skills necessary to de- termine if a grammatical mistake has been made. In short, the same knowledge that underlies the ability to produce correct judgment is also the knowledge that underlies the ability to recognize correct judgment. To lack the former is to be deficient in the latter.)
── Kruger, Justin and Dunning, David, 1999, “”Unskilled and Unaware of It: How Difficulties in Recognizing One’s Own Incompetence Lead to Inflated Self-Assessments””, Journal of Personality and Social Psychology, vol.77, no.6, p.1121-1134.

ある分野において知識や能力が乏しい人は、その分野の全体像や奥深さが見えません。また、有能な人がどれだけ高度なことをやっているのかも理解できません。そのため、能力が低い人は「自分自身にどんなスキルが足りないのか」を理解する知識も持っていないため、自分はそれなりにスキルがあると思い込んでしまうのです。

過大な自己評価は成長や成功を妨げる!── ダニング=クルーガー効果による弊害

ダニング=クルーガー効果に陥ってしまうと、ビジネスや人間関係にさまざまな悪影響を及ぼすため成功からどんどん遠ざかってしまいます

① 他責思考になってしまう

まず、ダニング=クルーガー効果は他責思考の原因になります。他責思考とは、自分のミスや失敗を受け入れられず、他人や環境など自分以外のもののせいにしてしまうことです。同論文でも、次のように指摘されています。

“成功するためには、多くのことがうまくいかなければならない。それは、その人の技術、努力、そしておそらくは少しの幸運である。一方、失敗の場合は、これらの要素のうち一つでも欠けていればよい。このため、人はスキル不足を指摘するフィードバックを受けても、それを他の要因のせいにしてしまうことがある。(原文 : For success to occur, many things must go right: The person must be skilled, apply effort, and perhaps be a bit lucky. For failure to occur, the lack of any one of these components is suffi- cient. Because of this, even if people receive feedback that points to a lack of skill, they may attribute it to some other factor (Snyder, Higgins, & Stucky, 1983; Snyder, Shenkel, & Lowery, 1977).
── Kruger, Justin and Dunning, David, 1999, “”Unskilled and Unaware of It: How Difficulties in Recognizing One’s Own Incompetence Lead to Inflated Self-Assessments””, Journal of Personality and Social Psychology, vol.77, no.6, p.1121-1134.

このように、たとえ人から自分の能力不足を指摘されたとしてもそれを素直に受け止めることができず、周りのせいにしてしまうのです。

② 人を正しく評価できず、横柄な態度を取りがちになる

ダニング=クルーガー効果に陥っていると、他人の能力を正しく評価することもできません。たとえば、本当は自分よりもずっと会社の利益に貢献している社長や上司に対して「何もしていない」と感じてしまったり、「自分の方が有能だ」と勘違いしてしまったりするのです。

こうなると横柄な態度や反抗的な態度を取りがちになってしまい、

  • せっかくの機会を逃す
  • 自分の評価を下げる
  • 人間関係を悪化させる

などの原因になります。

③ 慢心してしまい、自分の成長を妨げる

ダニング=クルーガー効果による自信過剰は、慢心につながり自分の成長を妨げることもあります。メタ認知の欠如によってそもそも能力不足を感じていないため、

  • 自発的に勉強しない
  • 他人からのアドバイスやフィードバックを素直に受け取らない
  • 他人の仕事ぶりや発言から学びを得ることができない

などといった態度・行動につながり、自身の成長と成功を遠ざけてしまうのです。

誰でも「馬鹿の山」にぶつかることがある! ── ダニング=クルーガー曲線とは?

自らを成長させる機会を逃し、良質な人間関係やビジネスの成功などを遠ざける原因にもなってしまうダニング=クルーガー効果ですが、実のところ成功しようと努力する人ほど陥ることが多い現象でもあります。それはなぜかというと、次の図で表すような成長の過程を通る人が多いからです。

この図は横軸に「能力・知恵」、縦軸に「自信」を取ったもので、「ダニング=クルーガー曲線」と呼ばれています。この図が示すように、「知恵や能力」の成長の過程で「自信過剰」を経験することが多いのです!

「馬鹿の山」を越え「絶望の谷」に落ちてから本当の成長が始まる

ダニング=クルーガー曲線は、人は成長に応じて次のように自信が変化することが多いということを示しています。

この図が示す通り、成長の初期段階ではどんどん自信がついていき、自信過剰になっていきます。これが「馬鹿の山」と呼ばれるものです。「馬鹿の山」を登っている最中は、まさにダニング=クルーガー効果に陥っている状態です。メタ認知が欠如し、ピーク付近では「完全に理解したぞ!」と自信に満ち溢れるわけです。

しかし、それ以上に知識が増えていくと、次第にその分野の全体像や奥深さが見えるようになってきます。真の実力者との差を思い知り、「自分なんて井の中の蛙だった」と自信を失っていくのです。これが「絶望の谷」です。

【ポイント】
「絶望の谷」に一度落ちてからが「真の成長」を見込める段階です。知識・スキルがつくごとに実力に応じた自信を持てるようになり、本当の専門家・実力者に近づいていくのです。

ダニング=クルーガー曲線からわかる通り、「馬鹿の山」は多くの人が経験する「乗り越えるべき成長の過程」です。自分がダニング=クルーガー効果に陥っていることを知り、絶望とともに謙虚さを身につけてこそ真の成長が始まるのです。

過大な自信があるからこそ新たな扉を開ける ── ダニング=クルーガー効果のプラスの側面

ここまで示してきた通り、ダニング=クルーガー効果に陥っている段階はマイナスの側面が大きいものですが、実はメリットもあります。身の程知らずだからこそ新たな扉を開くチャンスが訪れるのです!

【ポイント】
もしあなたに物事の本質や全体像を鋭く見抜くセンスがあったとしたら、それに取り組む前から自分の能力の低さを思い知ってしまい、その分野で大きなことを成し遂げようとは思わないでしょう。ダニング=クルーガー効果による過大な自信が、あなたのチャレンジ意欲を湧き立てるのです!

未知の海域を旅して新大陸を見つけたコロンブスもバスコ・ダ・ガマも、きっと大いなる自信を持って探検隊を率いていたことでしょう。未知の旅なのですから、少々「自信過剰」であった可能性が高いと思います。しかし、その「錯覚」とも言える自信が偉業に繋がったのです。

これは現代でも同じです。大成功を収めたベンチャー企業も、ひとりで大きな成功を掴んだフリーランサーも、はじめは自信満々で「馬鹿の山」を登っていたはずです。専門家から見たら「馬鹿だ」と思われるような「過剰な自信」と「甘い見通し」があるからこそ「行動」することができ、その行動こそが成功のきっかけを生み出すのです。

「馬鹿の山」を越えるには? ── ダニング=クルーガー効果の対処・改善方法

ダニング=クルーガー効果による「優越の錯覚」は、挑戦者の証であり、乗り越えるべき壁です。しかし、どの分野でも「成功者」や「専門家」と呼ばれる人が少ないことからもわかる通り、「馬鹿の山」を越えるのは簡単ではありません。次のように、地道にステップを踏んでいく必要があります。

まずは、自分がダニング=クルーガー効果に陥っているという事実に気づく必要があります。つまり、自分が自信過剰だったことを思い知るということです。

【ポイント】
ダニング=クルーガー効果が示す通り、自信過剰に陥っている状態で自分の能力の低さを知るのは難しいと言えます。そのため、

  • さまざまな人との交流を持って視野を広げる
  • 真の専門家・実力者と出会う
  • 数値による圧倒的な差を見せつけられる

など、外部的な要因をきっかけに「馬鹿の山」を乗り越え、「絶望の谷」へ至ることが多いものです。自分の視野が狭くならないよう、外部との接触の機会を増やすことが重要と言えます。

また、ダニング=クルーガー効果について理解することや、瞑想などでメタ認知能力を鍛えることも自分の真の実力に気づくきっかけになります。あるいはコーチングやコンサルを受けるのも有効な手段です。このような対策方法を駆使して、「馬鹿の山」を乗り越えましょう!

【まとめ】成長と成功には「メタ認知」が大切!本当のスタートは「絶望の谷」に落ちてから!

ダニング=クルーガー効果とは、能力の低い人ほど自分の能力を過大評価しやすいという「優越の錯覚」についての認知バイアスです。能力が低いためにその分野の全体像や奥深さを理解できず、自信過剰になってしまうのです。

ダニング=クルーガー効果に陥っている状態は「馬鹿の山」とも呼ばれる成長の初期段階です。この山を乗り越え、本当の実力者・専門家との差を思い知ってはじめて真の成長に至ることができます。何かで成功したいと思うなら、まずは自分がまだ「馬鹿の山」を登っている途中ではないかと見つめ直すことが大切なのです。

久保真介
久保真介
本メディアでは、ビジネスに役立つ心理学現象やマーケティングの理論、実践的なフレームワークの使い方まで、ビジネスパーソンのための情報を幅広く解説しています。ぜひブックマークして、他の記事もチェックしてみてください!

【参考資料】

ABOUT ME
SIN
サロン経営を猛烈な赤字でスタート。マーケティングを駆使しながら圧倒的な黒字化の仕組みを構築。サロン経営者にコンテンツセールスやコンサルをスタート。3年で複業月収8桁を達成。600名以上が登録する無料オンラインサロン(MAKE TIME)や、”ロイヤル顧客リピートで満席の仕組み”を構築できる完結型コンテンツを無料で提供。コンサルタントとして50件以上のサリンを年商800万~3000万以上UPさせた実績を持つ。現在では、サロン経営の仕組み化や、複業のサポートコンサルを継続中。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です