マーケティング

【要約/書評】ドリルを売るなら穴を売れ ── お客様はモノ(ドリル)ではなく、価値(穴)を買っている!

「マーケティング」という言葉に、あなたはどんなイメージを持っていますか?

  • 数字や横文字が多くて、なんだか難しそう……
  • ネットで「稼げる」とかよく見かけるよね……ちょっと怪しいやつ?

などといったイメージを持つ方も多いのではないでしょうか? 実は、マーケティングの基本的な考え方自体は難しいものではありません。わたしたちは日々の生活の至るところで、マーケティングに関わっているのです!

【ポイント】
マーケティングとは、簡単に言えば「売ることに関するすべて」を指します。そこには、お客様がどんな商品を望んでいるのかの調査であったり、売れる商品を考案したり、適切な広告を考えたりなど、さまざまなことが含まれます。

そしてわたしたち消費者も、企業の広告を見る、商品を購入する、買った商品の写真を撮ってSNSに投稿するなどの行動を起こしています。つまり、わたしたちも買う側として、マーケティングの重要な一部を担っているのです!

このように、マーケティングはわたしたちの身の周りのあらゆるところに潜んでいます。そんな「マーケティング」に気づき、その意図や目的を理解すれば、ビジネスマンとしての「物事の見方・考え方」が変わり、仕事の業績アップやスキルアップにも大きく繋がります

そんなマーケティングの入門書として最適なのが、佐藤義典氏の著書『ドリルを売るなら穴を売れ』です。

同書は、廃業寸前のレストランをマーケティング初心者の新入社員「真子」が、マーケティングを学びながらレストラン再生へ挑んでいくストーリー仕立てになっています。マーケティングについての解説も丁寧でわかりやすいうえ、ストーリーも作り込まれていて面白いので、難しい話が苦手な人にもおすすめの一冊です。

佐藤氏は、同書の中で「マーケティングは4つの理論で戦略を組み立てる」ことを提唱しています。4つの理論とは、以下の通りです。

この中でも特に、「お客様にとってのベネフィット」こそマーケティングの本質だと佐藤氏は述べています。本記事では、本書のメインテーマである「ベネフィット」を中心に捉えながら、マーケティング戦略立案の柱となる「4つの理論」について解説していきます。

お客様は「商品・サービス」ではなく「価値」を買っている!

わたしたちは日常生活の中で、多くのものを買い、サービスを契約します。このとき、わたしたちは何を買っているのでしょうか? 商品やサービスを気に入って購入しているのは確かなのですが、実のところ、本当に求めているのは「商品・サービス」ではなく、その商品が持つ「価値(ベネフィット)」であることがほとんどです。

「ベネフィット」とは何なのでしょうか? それを端的に説明しているのが、この本のタイトルにもなっている「レビットのドリルの穴理論」です。アメリカの経済学者であるセオドア・レビット教授は、著書『マーケティング発想法』の中で「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく”穴”である」という格言を紹介しています。つまり、ドリルを買う顧客が本当に求めているのは、ドリルという商品自体ではなく「商品を購入した結果として手に入る価値(=穴を開けること)」であるということです。このように、ベネフィットとは「お客さまにとっての価値」を表しているのです!

ここで大切なのは、どんな仕事においても作る側・売る側として「お客様のベネフィットを考える」ことです。売る側に回ると「商品」を売ることが目的になってしまいがちです。そうなってしまえば商品企画やプロモーションは顧客目線を失い、自分よがりなものになってしまうでしょう。

しかし、お客様の本当の目的(=ベネフィット)を考えれば、お客様が求めている商品を企画・開発したり、商品の魅力が正しく伝わる広告宣伝ができるはずです。このように、マーケティングは「お客様にとっての価値(=ベネフィット)」を考えることから始まります。マーケティングの本質とは、商品を通してお客様に価値を与えることなのです!

久保真介
久保真介
同書は1971年に発行された本なので、実に50年以上もの間、この言葉はマーケティング界で語り継がれているわけです。それほど「ドリルの穴理論」はマーケティングの本質を捉えたものなのです!

『ドリルを売るには穴を売れ』は、マーケティングをこれから学びたい人におすすめ!

ドリルを売るには穴を売れ』は、「マーケティングの基本中の基本」をわかりやすく学べる良書です。

冒頭で述べたように、マーケティングは身の回りで常に起こっています。日常生活においてマーケティング目線を持ちながら暮らすことで、マーケティング脳は鍛えられます。しかし、マーケティング全体を正しく理解するには、理論に則って整理する必要があります。

同書では、佐藤氏がマーケティングの核と考える「価値(ベネフィット)」を中心に、マーケティングの基本中の基本である「4つの理論」について学べます。

仕事でマーケティングに携わることになった初学者の方はもちろん、どんな仕事をするうえでも重要な「顧客目線の仕事の在り方」を楽しく学べる一冊となっているので、ビジネスパーソンとして活躍したいすべての人におすすめです。

すでにマーケティングの仕事に就いている人にとっても、マーケティングの本質を学び直すぶ良い機会になるので、ぜひ一度手に取ってみて欲しいですね!

久保真介
久保真介
ここからは、本書に記されている4つのポイントについて、もう少し詳しく解説していきます!

お客様にとっての「価値」とは『ベネフィット』と『欲求充足』 ── マーケティングの中心は「ベネフィット」

マーケティングにおいて最も重要なのは「お客様に価値を与えること」です。では、お客様にとって価値とは何なのでしょうか?

【ポイント】
わたしたちは常日頃さまざまな欲求や欲望を抱えていて、その欲求や欲望を満たすため(=欲求充足)に商品を購入します。つまり商品のベネフィット(=価値)とは、「美味しいものが食べたい」「課題を解決したい」などといった「欲求(=ウォンツ)」を満たしてくれることなのです!(詳細 → ニーズ・ウォンツとは?)

自分に置き換えて考えてみると分かりやすいですね。どんな商品やサービスでも、理由もなく購入はしないはずです。「流行っているから」「デザインが好きだから」「使いやすいから」など、何らかの理由があって買うのではないでしょうか? それがあなたにとってのベネフィットであり、買うことによって欲求充足がされているということです。

あなた自身「買う」ことに理由があるように、人々が買い物をする裏にはベネフィットと欲求充足が関わっています。したがって、お客様が抱えている欲求や求めているベネフィットを理解することが、マーケティングの中心となるのです。

久保真介
久保真介
だからこそ佐藤氏は、本書の中でマーケティングの基本中の基本だという「4つの理論」の中で最も重要なものとしてベネフィットを挙げているわけですね!

マーケティングの重要ポイント ── 「機能的ベネフィット」と「情緒的ベネフィット」

マーケティングの中心概念であるベネフィットには、「機能的ベネフィット」「情緒的ベネフィット」の2種類に分けられます。

機能的ベネフィットは「物理的な価値」とも言われ、その商品が持つ機能や価値がそのままベネフィットになります。たとえば時計なら、時間の確認や重量感、食べ物であればお腹を満たすためや胃に優しいといった理由が機能的ベネフィットです。

一方で、情緒的ベネフィットは人の数だけ無限に存在します。商品やサービスから得られる優越感や満足感、ステータスなど他者目線が絡む要素も含んでいる場合が多いです。

なお、売れている商品やサービスは、お客様が求める「ベネフィット」を高いレベルで満たしています。東京ディズニーランドやiPhoneは典型的な例と言えるでしょう。

まとめると、お客様にベネフィットを感じてもらう方法は2つです。商品自体が持つ「早い」「便利」「うまい」のような基本的機能で「物理的」に欲求を満たす、もしくは「デザイン」や「ブランド力」などで「心理的」に満足させるのです。

人は欲求を満たすために「買う」 ── 人間の3大欲求

人が商品を買う理由はベネフィットのほかに、「自分の欲求を満たす」ためでもあります。佐藤氏はその欲求を「人間の3大欲求」と称し、以下の3つにまとめました。

これは、心理学者のアルファダー氏が提唱した「人の欲求に対する『ERG理論』」をもとにして佐藤氏が独自にまとめたもので、人なら誰しもが持つ本源的なものだと言います。

たとえ同じ商品を買う場合でも、その理由となる「欲求」は人によってさまざまです。マーケティングをするなら、まずその商品を介してお客様へ与えられる満足感は何なのかを考え、お客様が持つ欲求を理解しなくてはなりません。

久保真介
久保真介
そのためにアンケート調査や顧客インタビューなどの「市場調査」を行うのも、マーケティングの大事な仕事のひとつというわけですね! 本書のストーリーでも、実際に顧客インタビューを行う場面が用意されていました。

商品のベネフィットでお客様の欲求を満たすことがマーケティングの本質

繰り返しになりますが、お客様の欲求を満たすためには、まずお客様の欲求を理解するのが大切です。マーケティングの本質は、商品のベネフィットをお客様に実感してもらい、お客様が求めているその欲求を満たすことなのです。

お客様は「商品が持つベネフィット」によって「自分の欲求を満たすことができる」と判断すれば商品を購入してくれます。一方で、売る側にとって競合相手が多い現代社会では、他社よりも優れたベネフィットを持つ商品の提供が必要とされます。

そのためには、他社と商品を差別化して「独自の価値」を提供することが必要です。

「ベネフィット」を中心に戦略を組み立てよう! ── 顧客を絞り、差別化して、価値の届け方を考える

マーケティングの核となる「お客様へ提供する『ベネフィット』」を決めたら、それをもとに戦略を考え、独自の価値を生み出していきます。具体的には、次の3つが軸になります。

  • 顧客を絞る(セグメンテーションとターゲティング)
  • 差別化をする(ポジショニング)
  • 価値の届け方を決める(4P)

順に解説していきます。

売る対象を狙って絞る ── セグメンテーションとターゲティング

ここまでに説明してきた通り、同じ商品でも人によって求める価値や欲求は違います。別の見方をすれば、ひとつの商品で全てのお客様を満足させることは出来ないということです。

したがって、扱う売る商品を決めたら、次に「どんな欲求を持ち、どんな価値を求める人」を対象にしていくか決める必要があります。つまり、その商品で満足させられる「顧客ターゲット」を絞るわけです。

久保真介
久保真介
なお、本書では用語自体は出てきませんが、一般的にターゲットを絞ることを「ターゲティング」と言います!

ターゲットとする顧客を決めるには、まずはどんな顧客がいるのか調べ、求める価値や欲求などで分けなくてはなりません。それを「セグメンテーション」といいます。セグメンテーションで分けてから、狙うべき顧客(=ターゲット顧客)を決めていくのです。

本書では、セグメンテーションの方法を大きく2つに分けて解説しています。年齢や性別で分ける「人口統計的セグメンテーション」と、心理や行動、ライフスタイルで分ける「心理的セグメンテーション」です。ベネフィットで分けるセグメンテーションも、この心理的セグメンテーションに分類されます。

どちらのセグメンテーションにもデメリットが存在します。人口統計的のほうではライフスタイルが違う人が一緒のカテゴリーに分類されてしまうこと、そして心理的のほうでは人の心中で起きるため、実行する限界と分類しにくいデメリットがあります。そのため、本書では2つを掛け合わせた活用がおすすめされています。

商品を売るターゲットを決める前に、まずセグメンテーションで絞りましょう。

「狙うために絞る! 絞ってから狙う!」のです!!

(関連記事)セグメンテーションとは? ── マーケティングの「STP」のファーストステップを詳しく解説!

(関連記事)ターゲティングとは? ── 顧客ニーズの違いを見極め、利益を最大化できるマーケティング戦略を立案しよう!(※近日公開予定)

ライバルは同業だけではない! ── 自社の強みを活かすために差別化をする

お客様の価値を理解しターゲット顧客を決めたら、次に同じターゲット顧客を狙うライバルに勝つための差別化戦略を考えましょう。

まず憶えておきたいのは、お客様が求める価値によっては、さまざまな業種がライバルになる可能性があることです。マクドナルドはハンバーガー屋ですが、同業種のロッテリアやモスバーガーだけではなく、吉野家や立ち食い蕎麦屋とも競合しているのです!

本書の内容ではないですが、わかりやすい例としてハーゲンダッツのライバルを考えてみましょう。ハーゲンダッツは競合商品としてプレミアムモルツを意識していると言います。一見するとアイスクリームとビールでは競合にならないように感じますが、このことはハーゲンダッツのターゲットや提供している価値(ベネフィット)を考えて見るとその真意がわかります。

ハーゲンダッツは「家事や仕事で忙しい大人女性」をターゲットに「やっとくつろげる夜の時間の、優雅な楽しみ」といったベネフィットを提供しており、これはプレミアムモルツと被っているのです!

このように、ライバルは同業種だけとは限りません。お客様の時間やお金は限られていますので、他業種も含めた多くのライバルに打ち勝つためには、自社にしかない強みで「独自の価値」を提供する(=商品を差別化する)必要があります。

佐藤氏は差別化戦略は「お客様の消費行動」を軸に差別化の方向性を決めるべきだと述べています。お客様の消費行動は常に一定ではありません。そのときの気分やシチュエーション次第で商品やサービスに「求める価値」が変わります。

佐藤氏は「マイケル・トレーシーとフレッド・ウィアマーセによる3つの価値基準」をもとに、3つの差別化戦略を提唱しています。

3つの軸から他社には負けない自社の強みを活かせるものを1つを選び、その方向性にフォーカスします。そして残り2つの軸は平均点以上を取れるように意識していきましょう。

久保真介
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なお、独自の価値提案によって他社と差別化して、お客様に特別なポジションの商品だと認識してもらえるようにすることを「ポジショニング」と言います。差別化やポジショニングについて詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひご覧ください!

(関連記事)PODとは? ── 差別化マーケティングの基本「POD / POP / POF」を押さえて強いブランド・ポジションを築き上げよう!

(こちらもおすすめ)【まとめ】ポジショニングとは? ── 強いポジショニング戦略で顧客の「マインドシェア」を獲得しよう!(※近日公開予定)

4Pで具体的手段や価値を現実化する!

ここまでに解説してきた「顧客ターゲット戦略」や「差別化戦略」を実現するためには、さらに具体的な「戦術」に落とし込んで実際にアクションを起こしていくことが必要です。

そんなマーケティングの「戦術面」を考えるためのフレームワークが、これから説明する「4P」です。4Pとは、マーケティングの施策として考えるべき”4つのP”を表したものです。お客様に価値を提供して、その対価としてお金をもらう具体的手段と価値の現実化のために4Pを活用していきます。

4Pは4つの組み合わせ次第で無限ともいえる戦略が考えられます。ここでのポイントは「一貫性」です。4Pは相互に作用するため、一貫性を持つことで強い力を発揮します。さらに良いマーケティングにするために「ベネフィット」や「ターゲット顧客」「差別化戦略」にも一貫性を持たせることも意識していきましょう!

久保真介
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4Pについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください!

(関連記事)【総まとめ】マーケティングの4Pとは? ──「4つのP」それぞれの戦略・施策をまとめて解説!(※近日公開予定)

(こちらもおすすめ)マーケティング・ミックスとは? ── 4P、4Cなどの「施策立案」のフレームワークを解説(※近日公開予定)

【考察/感想】マーケティングは日常で起きている ── 自分の行動をマーケティング目線で考える習慣を持とう!

本書はサブタイトルに「マーケティング入門書」と書いてあるだけあって、難しい話が苦手な人にも分かりやすく解説されていました。

とりわけ印象に残ったのが、「マーケティングは日常で起きている! 」という言葉です。マーケティングは身の回りで常に起きていて、自分自身も買う側としてマーケティングに関わっていた事実に気づかせてくれました。

「マーケティング脳を鍛えるには、自分の身の回りから学べばよい」と佐藤氏は述べています。電車の中吊り広告や郵便ポストに入っていたDMなど、日常的に目にするものからマーケティング的な思想や発想ができるようになります。マーケティング脳を持っておくのは、ビジネスパーソンにとっても大切です。ビジネスに役立つヒントやネタを集められるようになるからです。

この本との出会いは、マーケティング脳の重要性を知り、マーケティングの本質的な部分やマーケティングの基礎を学ぶきっかけになりました。改めて読み返してみても学ぶことは多く、データ分析の手法や心理学的なテクニックとは違う、"マーケティングの本質"に触れることができるのでマーケティングに精通している人にもおすすめです。

「この本のことは知ってるけど、まだ読んではないんだよね」という人は読んでみてほしいです!

【まとめ】マーケティングの本質は「お客様のベネフィットを考えること」 ── 対価以上の価値を提供できれば商品は売れる!

マーケティングとは「売ることに関わるすべて」を指しますが、その本質は「お客様に価値(ベネフィット)」を与えることです。売り手側に立つと売り物は「商品そのもの」だと思いがちですが、買う側にとっての売り物は商品ではなく、その商品がもたらしてくれる「価値」なのです。

したがって、売る商品が決まったら、商品を通してお客様にどんなベネフィットを与えられるのかを考える必要があります。お客様は、この商品には自分の欲求を満たしてくれるだけの価値がある、支払う対価以上のベネフィットがあると感じれば商品を購入してくれます。

世の中に溢れた豊富な商品やサービスの中から自社を選んでもらうためには、差別化戦略で自社の強みをアピールし、狙った顧客ターゲットへ商品のベネフィットを届けることがとても重要です。

マーケティングの本質を基礎から学べる本書を読んで、マーケティングの実践やあなたのビジネスに活かしてみてください!

【参考資料】

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SIN
サロン経営を猛烈な赤字でスタート。マーケティングを駆使しながら圧倒的な黒字化の仕組みを構築。サロン経営者にコンテンツセールスやコンサルをスタート。3年で複業月収8桁を達成。600名以上が登録する無料オンラインサロン(MAKE TIME)や、”ロイヤル顧客リピートで満席の仕組み”を構築できる完結型コンテンツを無料で提供。コンサルタントとして50件以上のサリンを年商800万~3000万以上UPさせた実績を持つ。現在では、サロン経営の仕組み化や、複業のサポートコンサルを継続中。

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